カンヌ受賞『万引き家族』考察ネタバレ感想/ラスト結末は?逮捕の理由は?
是枝監督作。経済的に下層の家族が仕事だけでは暮らせず、子どもまでもが万引きを繰り返します。さらに、ゆりという少女を連れ帰り一緒に暮らすことになるが...。本当の家族は誰?関係は継続できるのか?(ネタバレ感想あらすじ↓)
映画名/邦題 | 万引き家族 |
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日本公開日 | 2018/6/8 [予告] 上映時間:120分 |
監督・キャスト | 是枝裕和(キャスト) |
映倫区分 | 日本:PG12(小学生指導必要) USA:R |
配給/製作 (画像出典) | ギャガ/AOI Pro. |
日本興行収入 | 45.5億円 (年間11位) |
世界興行収入 | 0.6億USドル [出典] |
平均評価 平均:100換算 *批評家と一般は単純平均 | (興収・評価: 2024.8.19更新) 82(私の評価は含まず) |
シリーズ 関連作品 | ヒューマンドラマ/恋愛/コメディ一覧 |
登場キャラクター(キャスト/出演者)
- 柴田治(リリー・フランキー)日雇い労働者。子ども達に万引きを教える。信代の夫?
- 柴田信代(安藤サクラ)クリーニング店のパート従業員。治の妻?
- 柴田亜紀(松岡茉優)さやかと名乗りJK見学店で働く。信代の妹?
- 柴田初枝(樹木希林)夫と離婚した高齢の年金受給者。治の母親?
- 柴田祥太(城桧吏)小学校へは行かずに治と万引きしている。治の息子?
- ゆり(佐々木みゆ)りんとも呼ばれ、本名は北条じゅり。父はDVで、母からネグレクトの児童虐待を受けてた
- 4番さん(池松壮亮)
- 警察官(高良健吾、池脇千鶴)
ネタバレ感想『万引き家族』解説と評価
以下ネタバレあり感想考察なのでご注意を!
監督の是枝裕和とカンヌ国際映画祭パルムドール受賞
是枝裕和監督の映画一覧はこちらからご覧ください。本作『万引き家族』は、2018年のカンヌ国際映画祭で最高賞パルム・ドールを受賞しました。日本人としては1997年の今村昌平監督『うなぎ』以来21年ぶりの快挙です。
最高賞がグランプリと呼ばれてた頃もあわせると、日本人では5人目の最高賞受賞です。是枝裕和監督はカンヌ国際映画祭では最高賞以外にも受賞歴があります。『誰も知らない』では、映画祭史上最年少の最優秀男優賞(柳楽優弥)を受賞しています。
また『空気人形』『海よりもまだ深く』は「ある視点」部門に、『海街diary』『三度目の殺人』もコンペティション部門に正式出品されました。『そして父になる』ではカンヌ国際映画祭の審査員賞を受賞しました。
豪華キャスト陣の競演・演技対決がみどころ?
下手な俳優女優はすぐわかりますが、それ以外の人の「演技力」の良し悪しは評論家の間でも意見が別れてることがあります。ただ「心を揺さぶられる演技・自然な表現」のみにフォーカスすると、本作での万引き家族6人の演技はどれも満点に近いです。
『愛のむきだし』『百円の恋』など数々の映画で評価されている安藤サクラは、裸体を見せただけでなく、絶妙な間やアドリブのような表現で魅了しまくります。特にラストでの池脇千鶴との会話や、リストラ時に「殺すよ」とおどす場面は狂気を感じます。
リリー・フランキーは「ひょうひょうとした優しいおじさん」と「ネジが飛んだモラルのない悪人」の両タイプを演じられる俳優になってますが、今回はこのどちらの要素もあわせ持つ人物を好演しています。子役の城桧吏との掛け合いも見事です。
樹木希林は是枝映画の常連ですが、本作公開後の2018年9月に亡くなりました。遺作は別作品です。そう考えると『万引き家族』の海岸での声のない「ありがとうございました。」は映画内の家族と視聴者や仕事関係者に向けての二重の意味にもとれます。
樹木希林の台詞はアドリブも多そうです。特に安藤サクラには海岸などで遠慮なしに女優としてのセリフをぶつけてた感があり、まさに「競演」です。元夫を奪った家庭へ月命日に行く場面でも、恐ろしい復讐の鬼ぶりを見せてます。
松岡茉優は『ちはやふる 下の句』や主演の『勝手にふるえてろ』でその存在感を見せつけたけど、本作では異質な家族の一員ですが、風俗嬢を演じきったり、樹木希林や安藤サクラという化け物級女優と近い距離で演じたりしても「個性」を発揮できてます。
子役の使い方に定評のある是枝監督ですが、城桧吏と佐々木みゆ、も演技というより大人の言動に自然に対応してるように見えて違和感が全くありません。2人とも闇を抱える難しい役なので、わかって演じてるのなら将来が恐ろしい逸材です。
「万引き家族」タイトルの意味とは?別題は?
「万引きしながら生きる家族」と「万引きされて集まった家族」というダブルミーニング(二重の意味)だと思います。治(リリー・フランキー)は万引きに罪の意識は感じなくなってます。そして祥太(城桧吏)にも手伝わせます。
治は祥太が幼い頃、パチンコ屋の車に閉じ込められてるのを救い、万引きしたように連れ帰ったのです。両親に放置されてた、ゆり(佐々木みゆ)も連れ帰ります。初枝(樹木希林)はパチンコ屋で球を盗み、元夫の再婚先からお金をもらいます。
そのため、そこの長女の亜紀(松岡茉優)は、初枝からお金を免除してもらってます。亜紀は裕福な家庭で育ったが優秀な妹に愛情を奪われた(万引き)と感じてるようで、水商売店では「妹さやかの名前を盗用(万引き)」して汚しています。
初枝の「血がつながってない方が余計な期待しないだけいい」が響きます。初枝は元夫の再婚先の家族から、長女の亜紀を「万引き」したようになってて復讐心をも感じます。
ちなみに『万引き家族』の当初のタイトルは『声に出して呼んで』だったそうです。劇中でも治や信代(安藤サクラ)が、子どもらに「お父さん」「お母さん」と呼ばれたがってました。それこそ是枝監督が伝えたかったテーマなのかも。
スイミーとは?万引き家族のメタファーか?
祥太は「学校は勉強できない者が通う所」ということを信じてるけど、学校での勉強には興味を持ってるようです。国語で習う「スイミー」とは、弱い小魚たちが集まり大きな魚の姿となって、襲ってきた大魚を追い払う物語だと治に話します。
学校教育を受けたのかあやしい治はあまり興味を持たないけど、治や信代たちの万引き家族は「経済的に弱い人間の集まり」であり、スイミーに似ています。大きな敵は「弱者を救済しない社会や国家権力」と考えられます。
祥太はわざと逮捕されたのか?
ラストで祥太がおかした万引きは、ゆりを守るためとはいえ明らかに「わざと」のように見えました。ここまでの過程でも、祥太がモラルや善悪について考え始めた描写がつづきます。最初は治がゆりに万引きを教えようとした時です。
祥太はゆりが万引き家族になると、今まで得ていた治や信代からの愛情を取られてしまうような嫉妬を感じたのでしょう。亜紀の妹に対する感情と似ています。同時に祥太はゆりに「万引きという悪事ぽい事」をさせたくないと思ったのでしょう。
祥太は治から「店の商品はまだ誰のものでもない」と教えられ信じてたけど、良心が芽生えてコソコソ盗むことに疑問も感じ始め、信代に確認したりします。信代が、死んだ初枝の現金を引き下ろしたこともモラル的には納得してません。
治が車上荒らしする時には「車の中の物はもう誰かのものでは?」と反発して実行犯にならず「物心ついた」のだと感じました。しかしどうすれば「法的な悪事」から抜け出せるのかわからず、最後の万引きはSOS信号のように思えます。
祥太は捕まった後、自分を捨てて逃げようとした家族に失望して罪を暴露します。学校にも通えるようになり、同年代の友達を作ったり社会とつながる楽しみもおぼえたのでしょう。それでも育ての親の治に恩は感じてるようだけど、過去にとどまる治とは対照的に、未来へ進む姿をバスが象徴しています。
治が本名を祥太につけた理由とは?産みの親か育ての親か
治の本名は「榎勝太(えのき しょうた)」だと逮捕後に判明します。つまり祥太には自分の本名と同じ「しょうた」と名付けたのです。理由は語られないけど「社会から消滅した自分のアイデンティティ」を祥太にたくしたのかもしれません。
また、ラストで飛び降りた祥太は治と同じように足をケガします。信代と同じようなやけどあと(親からのDV)がゆり(じゅり)にもあったりと、疑似家族ながらも「遺伝子以外の継承」のような描写があり興味深いです。
子を産めない体の信代は警察官(池脇千鶴)に「産んだだけでは親になれない」と言いますが『万引き家族』はまさに「産みの親と育ての親を対比させる物語」です。祥太もゆりも、育児放棄に近い産みの親に育てられるより幸せに見えます。
「子は親を選べないし、幼い子は親から逃げる手段を思いつかない」ので、救いたい人が万引きしてでも連れて行き、育てるしかないのでしょうか。もちろんそれは違法ですが、社会も国も救済しない子どもを救う方法は他にあるのでしょうか?
『万引き家族』では、子どもだけでなく独居老人についても同じように考えさせます。初枝を捨てた(埋めた)のかと聞かれた時、信代は「捨てたんじゃない。誰かが捨てたのを拾った」と答えてます。この家族が皆、拾いあったのでしょう。
『万引き家族』総括とアカデミー賞ノミネート
ラストで亜紀(松岡茉優)は初枝(樹木希林)が実家からお金をもらってたことを知り、結局は両親のお金で生きてたことに気づき自白したようです。しかし初枝の家に1人で戻ります。初枝を継承し、新たな万引き家族を作るつもりかもしれません。
富裕層のマンションにはばまれて花火も音しか聞こえない、社会から隔絶された家で暮らしてた家族ですが、家庭内暴力(ネグレクト)・DV・育児放棄・リストラ等、社会が拾えない問題における最後のセーフティネットが描かれています。
社会問題を描く映画は、アカデミー賞などでは評価されるけど、肩苦しくて大衆に受けにくい傾向にあります。しかし『万引き家族』は濃い社会問題をあつかうと同時にエンタメ性も確保してるので見やすいです。
カンヌだけでなく米国アカデミー賞の外国映画部門にノミネートされ惜しくも『ROMA ローマ』が受賞。日本アカデミー賞では12部門ノミネート13受賞しました。演技派の俳優女優の競演だけでなく面白い映画なので、ぜひおすすめです!
『万引き家族』ネタバレあらすじ
柴田治(リリー・フランキー)は少年の祥太(城桧吏)と協力してスーパーで万引きします。帰り道、団地の1階で凍えてた少女ゆり(佐々木みゆ)を見かねて連れ帰ります。平屋には治の妻の信代(安藤サクラ)、その妹の亜紀(松岡茉優)もいます。
少女を万引きして家族に?
年金暮らしの祖母の初枝(樹木希林)はゆりが傷だらけだと気づきます。翌日、治と信代はゆりを返しに行くが室内から「産みたくて産んだんじゃない」と聞こえたので連れ帰ります。治は日雇い労働の現場で負傷するが労災認定はされませんでした。
信代はクリーニング工場のパートだが、業績不振で出勤時間を削られリストラ候補になります。亜紀はJK見学店で「さやか」と名乗って働きます。治は祥太とりんと協力して高価な釣りざおを万引きすると、祥太はりんに嫉妬して「妹じゃない」とすねます。
TVニュースで行方不明のゆりが映り、本名じゅりと判明します。じゅりの髪を短く切り「りん」と呼ぶことにします。祥太はりんに駄菓子屋やまとやで万引きを教えるが、店主(柄本明)にバレてお菓子をもらい「妹には万引きさせるなよ」と諭されます。
ばあちゃんの復讐?少年は善悪を判断?
信代はじゅりと暮らしてることを脅迫されてリストラを受け入れるが「話したら殺す」とおどします。初枝は元夫の再婚相手の息子夫婦宅で線香をあげ3万円を渡されます。夫婦の娘さやかは亜紀の実妹で、夫婦は亜紀がオーストラリア留学中だと信じてます。
亜紀は風俗店で4番さん(池松壮亮)にひざ枕して、その手に自分をなぐった傷を見つけて共感します。家では信代と治がそうめんを食べて交わるが、翔太とりんが雨にぬれて帰宅するとふいてやります。夜、家族全員で隅田川花火大会の音だけを聞きます。
家族で電車に乗り、海水浴場へ行き遊びます。夜、初枝ばあちゃんが死んでて、葬式代も火葬代もないため床下に埋めます。信代は初枝の年金と預金116,000円をおろします。家ではへそくりも見つけます。翔太は治に車上荒らしを教えられるが実行しません。
ネタバレ結末
翔太は駄菓子屋が閉店なのを見て倒産したと思います。スーパーでりんの万引きがバレそうだったので、翔太は商品を盗んで逃走し、負傷して入院します。治と信代らは夜逃げする時に警察に捕まります。翔太は置き去りにされたと病室で知ります。
信代は前夫を治と殺害して埋めたが正当防衛と判定されてたようです。亜紀は初枝ばあちゃんが亜紀の実家から金をもらってたと知り、初枝を埋めたことを自白したようです。その罪とじゅりの誘拐は信代が1人でかぶり、前科ある治も信代に押しつけます。
信代と治はパチンコ店の車内に放置されてた幼な子を救い、治の本名の「しょうた」と名付けてました。翔太は児童施設から学校に通うが、治のアパートへも泊まりに来てバスで去る時に声に出さずに「お父さん」と言います。じゅりは両親の家に戻るが、自分を責めることはせず...
私の評価 78/100(60が平均)
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