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映画『スリービルボード』考察ネタバレ感想/ラスト結末は?犯人探しは本筋ではない?

スリー・ビルボード 映画/ドラマ

米ミズーリ州の片田舎で、娘を殺されたミルドレッドは、町はずれの3つのビルボードに犯人を逮捕できない警察への抗議文を設置し、警察と住民から浮いた存在になる。警察署長、荒っぽい警官、元夫、広告会社の社員など関係者がからみあい事態は思わぬ方向へ…(ネタバレ感想あらすじ↓)

映画名/邦題スリー・ビルボード
日本公開日2018/2/1 [予告] 上映時間:116分
製作国アメリカ、イギリス
原題/英題Three Billboards Outside Ebbing, Missouri
監督・キャストマーティン・マクドナー
キャスト
出演者
フランシス・マクドーマンド、ウッディ・ハレルソン、サム・ロックウェル、アビー・コーニッシュ、ジョン・ホークス
映倫区分日本:G(年齢制限なし) USA:R
配給/製作
(画像出典)
20th Century Fox/フィルム4・プロダクションズ、フォックス・サーチライト・ピクチャーズ、ブループリント・ピクチャーズ、カッティング・エッジ・グループ
日本興行収入3.9億円 興行収入ランキング
世界興行収入1.6億USドル [出典]
製作費0.1億USドル
平均評価
平均:100換算
*批評家と一般は単純平均
(興収・評価: 2024.8.20更新)
81私の評価は含まず)
シリーズ
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ヒューマンドラマ/恋愛/コメディ一覧

ネタバレ感想『スリー・ビルボード』解説と評価

以下ネタバレあり感想考察なのでご注意を!

ゴールデングローブ賞ではドラマ部門の作品賞、脚本賞、主演女優賞(フランシス・マクドーマンド)、助演男優賞(サム・ロックウェル)の4部門を、アカデミー賞でも主演女優賞と助演男優賞を獲得した傑作です。ミステリーのような始まり方ですが、序盤からおかしな方向へ転がりだして複数人の群像劇ドラマのように進展します。

映画『スリー・ビルボード』私の感想と評価

娘を殺した犯人をつきとめる物語かと思いきや、捜査の進捗や新しい証拠なども一切出てこなくて、それでもあやしい人が何人かいるので犯人である可能性を考えたりしますが、そのたびに裏切られてラストを全く予測できません。そういう意味で人にはおすすめしたいけど、個人的には「予測できないというより、違う方向へ進んでるだけ」に感じてラストも少し物足りなかったです。

でも心に残るシーンは多いし、登場人物たちの多面性を感じることができる脚本は素晴らしいので観る価値はある映画だと思います。見どころは、登場人物たちが決して表だけの1面性で語られることがない点です。冒頭は娘が殺されたミルドレッドに同情しますが、被害者の母が善人とは限らないと思い知らされます。

彼女は歯医者の指にドリルで穴を開けたり、警察署に火炎瓶を投げ込んで放火して知らぬふりしたり、小人症ジェームズを差別したりと問題だらけです。そんな彼女にも、事件当日に娘に言った一言をずっと気にしたり、子鹿に娘のように話しかけたり、うさぎスリッパで1人芝居したりする1面も見られます。

もう1人のメインキャラのディクソン(サム・ロックウェル)は、最初から荒っぽい差別主義者で常に怒りを持った人物で、署長が自殺したやりきれなさを弱そうな広告担当レッドにぶつけてしまいます。正直不快な人物ですが、署長からの遺書「怒りではなく愛を」を読んでからは急に聖人のように反転します。

放火された警察署からアンジェラのファイルを守り通したことはミルドレッドの心にも響いた気がします。この時に体の火を消したのはかつて馬鹿にした小人症ジェームズでした。そしてDNA採取のため軍人に無抵抗でなぐられるシーンから、入院先で自分が重傷に追いやったレッドにオレンジジュースを恵んでもらう場面は「赦し」を得た宗教観すら感じました

また、ウィロビー署長(ウディ・ハレルソン)は理想的な家族に囲まれた父親で、末期癌で余命わずかで、多くの映画では「同情されるべき、立派な人物」として語られがちですが、部下がさぼったり差別しても罰しないし、ミルドレッドを元夫の若い恋人の件で挑発したりと悪人ではないけど人間くさい人物です。

このように「人は表1面だけでは語りきれない」という多面性を強調してる映画ですし、そもそも『スリービルボード』(3つの広告看板)というタイトルがこの主要な3人のメタファー(隠喩)のようでもあります。看板には「表と裏」があり、おむつ広告のように「やがて風化していく」ことも表現されています。

「多面性」以外のテーマとして「怒りの連鎖」「マイノリティの葛藤」もあると感じました。怒りの連鎖とは、ミルドレッドがウォロビー署長や警察に向けた広告が、ディクソンによるレッド襲撃や、元夫による看板放火から、ミルドレッドによる警察署放火へと燃え広がっていき、最後は犯罪者の軍人に向けられます。

「怒りは怒りを来す」という言葉はこの映画を象徴していて、これを聞いたミルドレッドが改心したことからも重要ワードですが、それを言ったのが最も無害で頭の悪そうなキャラである、元夫の恋人ペネロープだったのは皮肉です。彼女はミルドレッドから夫を奪ったという自覚も悪気もなく、完璧に純粋な動物です。

マイノリティの葛藤としては、離婚したDV夫が19歳の恋人を持つシングルマザーのミルドレッド、父が亡くなった後苦労しながら少ない愛で育ったゲイ?のディクソン以外にも、小人症でアルコール依存症なので誰からも相手にされないジェームズ、デニスや広告張ってた男や新警察署長など黒人が描かれています。

雰囲気や音楽が西部劇を思い出させます。音楽はあまりあってない気がしたけど、後で考えると音楽すら多面性を表現してたのだと気づきました。例えばディクソンみたいな荒くれがABBA(アバ)「Chiquitita」を聞いてるのはアンバランスですが、そんな曲は聞かないというラベリングが本来は変なのです。

あと気になったのは、指に穴開けたり、殴って窓から落としたり、バーで殴り飛ばしたり、警察署や看板を放火したりの犯罪行為がほとんど罰せられない点です。小さな田舎町なので「持ちつ持たれつ」というゆるい解決なのでしょうか。娘の殺人犯が罰せられないのと同じような感覚にも思えます。

まだまだ語り尽くせませんが、全体を通して考えると「前半は怒りの連鎖が燃え広がっていき、署長の死や手紙や優しい人の差しのべた手によって沈下していき、ラストでは唯一?の悪人に怒りが向けられるが、復讐はなされず、その1人の悪人さえも良い1面があるかも」という流れを予想できます。奥の深い映画です!

序盤から中盤へのネタバレあらすじ

ミズーリ州のエビングという(架空の)田舎町のはずれの「迷ったやつかボンクラしか通らない道」に朝もやの中、3つの巨大な広告看板(スリービルボード)が見えてきます。ミルドレッド・ヘイズ(フランシス・マクドーマンド)は警察署前の広告会社へ行き、3つの広告出稿を1ヶ月5,000ドルの契約で依頼します。

広告は「RAPED WHILE DYING」(レイプされて(焼かれて)死亡)、「AND STILL NO ARRESTS ?」(まだ逮捕されない?)、「HOW COME, CHIEF WILLOUGHBY ?」(なぜ?ウィロビー署長)の3枚です。ジェイソン・ディクソン巡査(サム・ロックウェル)は車で走行中に見つけて署長に電話します。

その日からミルドレッドは青い戦闘服のような作業着を着てバンダナも巻き、TVインタビューで「娘は7ヶ月前に焼き殺されたが、警察は黒人をいじめることで忙しくてまだ犯人を捕まえない。ウィロビー署長が責任をとるべき」と訴えかけます。警察署内は動揺し、ディクソンは広告担当者を殴りそうになります。

ビル・ウィロビー署長(ウディ・ハレルソン)は事件を捜査中だが手がかりがないこと、自分は末期ガンで余命わずかとの同情などでミルドレッドに広告取り下げをお願いするが、ミルドレッドは「全男性のDNAをデータベース化すべき。署長が死ぬ前に訴えたかった」と言って取り合いません。

ビリヤード場でディクソンは同性愛者を差別し、広告担当者レッド・ウェルビー(ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ)は署長のガンを知らず、ミルドレッドは彼女に恋心がありそうな小人症のジェームズ(ピーター・ディンクレイジ)を差別し、説得に来た神父を聖職者による少年嗜好犯と同罪だと突き放します。

ミルドレッドは太った歯医者に治療中に広告批判されたため、歯医者の親指にドリルで穴を開け、警察に連行されます。ミルドレッドが黒人虐待を話題にするとディクソンは「有色人種」と言い換え、ウィロビー署長「人種差別者を解雇すると署に3人しか残らない」。尋問中に署長は吐血して病院へ運ばれます。

釈放されたミルドレッドは、息子ロビー(ルーカス・ヘッジズ)に広告を批判され、姉の事件の真相を町中に広めたと責められます。事件当日、姉アンジェラ(キャスリン・ニュートン)は車を借りたいと頼むが、ミルドレッドは娘のドラッグ使用を批判して「歩いて行け」と言ってしまい事件が起こり後悔してます。

元夫チャーリー(ジョン・ホークス)が広告をはずせと言うため、ミルドレッド家へ来て、娘アンジェラは事件前に父の所で暮らしたいと言ったことも話します。チャーリーは19歳のペネロープ(サマラ・ウィーヴィング)と交際中で、彼女は動物園をリストラされて今は乗馬の世話をしてると明るく健気に話します。

警官ディクソンは母の入れ知恵で嫌がらせのためミルドレッドと同じ店で働くデニスを逮捕します。ミルドレッドは広告前に花を供え、子鹿に娘のように話しかけます。誰かがミルドレッドの代わりに1ヶ月分の広告費を支払ってくれます。ウィロビー署長は娘2人と若くて聡明な妻と楽しい日を過ごした後「家族と過ごす最後の記憶が看病になるのは避けたい」との遺書を残し自殺します。

署長の死は警察署内を悲しみで満たし、ディクソンはその怒りを署の向かいの広告担当レッドに向けて、彼を銃や警棒でなぐって2階の窓から突き落として蹴り飛ばし重傷を負わせます。署長の死によりミルドレッドへの住民のいやがらせは増え、ミルドレッドは車に缶を投げた生徒を男女かまわず急所を蹴り上げます。

後任の警察署長アバークロンビー(クラーク・ピーターズ)はディクソン巡査の広告会社での暴行を目撃したので解雇します。彼は黒人なので、最初は白人警官たちも反発するがやがて従わせます。ミルドレッドの店で軍人風の男がウサギの置物を投げ割って「娘を殺したかった」と脅すが来客ベルで救われます。

ウィロビー署長の妻アン(アビー・コーニッシュ)が亡き夫がミルドレッドに宛てた手紙を持って来ます。手紙「犯人の手がかりを見つけられず申し訳ない。私の死は広告が原因と言われるだろうから、来月分の広告費を支払っておいた」。夜、スリービルボードが燃えててミルドレッドは消化を試みるが無駄でした。

警察署長アバークロンビー「敵ばかりじゃない」。ミルドレッドは落ち込み、うさぎのスリッパで「復讐するのか?気をつけろ」と善悪を1人芝居して立ち直ります。ディクソンは故ウィロビー署長からの手紙を閉署後の夜に受け取りに行きます。手紙「キレなければ良い警官になれる。憎しみではなく『愛』を持て」

同じ時、正面の建物に忍び込んだミルドレッドは警察署に人がいないか電話をかけます。ヘッドフォンで音楽を聞いてたディクソンは気づきません。誰もいないと思ったミルドレッドが警察署に火炎瓶を投げ放火すると、ディクソンがアンジェラの事件ファイルを守りながら火だるまで出てきて、小男ジェームズが火を消してやりミルドレッドをかばいます。

映画『スリー・ビルボード』ネタバレ結末ラスト

重傷やけどで顔が包帯だらけのディクソンは、自分が2階から投げ落としたレッド・ウェルビーと同じ病室になり謝ります。最初はレッドは動揺するが、ディクソンをゆるしてオレンジジュースのコップを差し出しストロー先も向けてやります。燃えた広告の予備を、張った黒人の若者がミルドレッドに届けてくれます。

息子ロビー、小人症ジェームズ、同僚デニスも手伝ってくれ広告看板を復活させます。退院したディクソンが1人酒を飲んでると後ろの席から、ミルドレッドの娘の事件と同じ頃に女性に火を付けたという声が聞こえてきて、喫煙のふりして軍人風の彼らの自動車のナンバープレートを確認します。

ディクソンはその男をひっかいて挑発し、あとは無抵抗で殴られてDNA採取に成功します。ミルドレッドは小男ジェームズとディナーに出かけたレストランで、看板に火を付けたのが元夫チャーリーだと本人から聞きます。不機嫌になったミルドレッドは店を出ようとするが、馬鹿にされたジェームズが先に帰ります。

チャーリーは恋人ペネロープが本のしおりで見つけた「怒りは怒りを来す」という言葉を教え、ミルドレッドの怒りは少し落ち着きます。ディクソンは軍人のDNA検査を依頼し、ミルドレッドにも犯人を見つけたとブランコに乗りながら伝え「ありがとう」と言われます。しかし犯人ではありませんでした。

新署長によると、DNAの軍人は事件当時、国外の砂漠の国(イラク?)にいたことが軍の上司から確認できたそうで犯人ではないことが判明し、ディクソンに電話で伝えられたミルドレッドは気落ちします。しかしディクソンとミルドレッドは、犯罪者である軍人の住むアイダホ州へ銃を持って一緒に行くことにします。

スリービルボードの裏側を通って行く途中、ミルドレッドは「警察署を燃やしたのは私」と告白するとディクソン「あんた以外に誰がやる?」と笑いかけ、ミルドレッドも笑顔を見せます。ミルドレッド「男を見つけたら殺す?」、ディクソン「あまり気のりしない」、ミルドレッド「私も。道々決めればいい」

私の評価 65/100(60が平均)

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