『女王陛下のお気に入り』考察ネタバレ感想/ラスト結末は?英大奥の勝利者は?
アカデミー賞、ゴールデングローブ賞でも注目。フランスと戦争中のイギリス王室で、アン女王に戦争を推進させる幼なじみのレディ・サラは、上流から没落したアビゲイルが女王の寵愛を得ようとしてると感じるが...。史実は?うさぎの意味は?(ネタバレ感想あらすじ↓)
映画名/邦題 | 女王陛下のお気に入り |
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日本公開日 | 2019/2/15 [予告] 上映時間:120分 |
製作国 | アイルランド・イギリス・アメリカ合作 |
原題/英題 | The Favourite |
監督・キャスト | ヨルゴス・ランティモス(キャスト) |
映倫区分 | 日本:PG12(小学生指導必要) USA:R |
配給/製作 (画像出典) | 20世紀フォックス/スカーレット・フィルムズ、エレメント・ピクチャーズ、アルカナ、フィルム4・プロダクションズ、ウェイポイント・エンターテインメント |
日本興行収入 | 1.3億円 興行収入ランキング |
世界興行収入 | 0.9億USドル [出典] |
製作費 | 0.2億USドル |
平均評価 平均:100換算 *批評家と一般は単純平均 | (興収・評価: 2024.8.18更新) 77(私の評価は含まず) |
シリーズ 関連作品 | 実話/歴史/時代/西部/戦争映画一覧 |
登場キャラクター(キャスト/出演者)
- アン女王(オリビア・コールマン)繁栄のグレートブリテン王国(現イギリス)の女王。わがままでさみしがりや
- アビゲイル・ヒル(エマ・ストーン)没落上流階級出身で女王の召使いに。魅力と野心を兼ね備え、宮廷で出世
- レディ・サラ(レイチェル・ワイズ)女王の幼なじみで女官長。実質的に女王を支配し政治を動かす。戦争推進派
- ロバート・ハーリー(ニコラス・ホルト)戦争集結派トーリー党員の貴族で、又従妹アビゲイルを利用しようとする
- サミュエル・マシャム(ジョー・アルウィン)大佐。アビゲイルに恋し、後に結婚。妻とハーリーに翻弄される
ネタバレ感想『女王陛下のお気に入り』解説と評価
以下ネタバレあり感想考察なのでご注意を!
監督やエマストーン含む3人の名女優や映画賞
ギリシアの映画監督ヨルゴス・ランティモスは『ロブスター』『聖なる鹿殺し』など奇抜な映画で注目されはじめています。『女王陛下のお気に入り』も含めて共通してるのは、静かな描写の中に「悪意」がかいまみえ、それが終盤に拡大されていく点です。
主演はアン女王役のオリヴィア・コールマンになるようですが、2人の女官役のエマ・ストーンとレイチェル・ワイズも助演とはいえ、ほぼトリプル主役のようです。3人ともアカデミー賞にノミネートされ、作品賞でもノミネートしてます。
エマ・ストーンは『ラ・ラ・ランド』でアカデミー賞で主演女優賞を受賞しているし、レイチェル・ワイズも過去に助演女優賞を受賞しています。オリヴィア・コールマンは本作でゴールデングローブ賞の主演女優賞を受賞しました。
見どころは「華やかな英王室と庶民の違い」「女どおしの覇権争い」?
背景はイギリス史に忠実な部分も多いのですが、メインとなる宮廷劇は史実をもとにしたフィクション(作り話)です。しかしレディ・サラとアビゲイルによる、女どおしのアン女王争奪戦は実際にあったようなので、まさに英国宮廷版の大奥です。
エマ・ストーン演じるアビゲイルは、冒頭で泥にまみれる没落貴族からスタートしますが、召使いから侍女、そして寝室付き女官へと出世を続けます。一方のサラは女官長でかつアンの親友でしたが、アビゲイルの台頭によりそのどちらも失います。
権力闘争では頭脳戦的な駆け引きが予想してたよりも少なくて残念です。アビゲイルが薬草で取り立てられた伏線をもとに、毒薬草でサラを失脚させようとするのが安易すぎると感じます。そんな簡単にすむのなら、最初から使えばいいのに。
この手の権力争いとしては目新しさを感じず、女王の寵愛の勝ち取り方もよくある方法なので、ストーリー面では平凡に感じたのですが、アカデミー賞では作品賞や脚本賞にもノミネートしてるのが不思議です。
一方、アカデミー賞の撮影賞、編集賞、衣装デザイン賞、美術賞へのノミネートには納得です。特に広角レンズと魚眼レンズを用いた撮影技法は独特で、宮廷の広い部屋で繰り広げられる愛憎劇を風刺っぽく観ることができます。
宮廷の装飾だけでなく、貴族の衣装も美しくて、近代ヨーロッパ王室のアートとして見るだけでも価値あります。化粧が下手な女王や、落ちぶれた女性の衣装や、庶民の衣服などにもこだわりが見られ、宮廷の華やかさとの落差もみどころです。
3女優の競演や顔芸など他の見どころは?
「持たざる者」アビゲイルが、「権力も優秀な夫も政治支配力も持つ」サラに近づき、最終的にはその立場に取って代わる物語なので、アビゲイルの最初⇒ラストと、サラのラスト⇒最初は対称となってます。まず泥にまみれたアビゲイルと、顔に傷のサラ。
サラと女王が2人とも泥風呂に入るのも転落のメタファーかもしれません。馬車から転落したアビゲイルと、落馬したサラ。召使いにこき使われるアビゲイルと、娼婦館のサラ。序盤ではサラの意見を重視した女王が、終盤はアビゲイルの意見を聞きます。
夜の相手もサラからアビゲイルに代わります。アビゲイルは女王にはそこまで奉仕するのに、夫となったサミュエル・マシャムには初夜なのに冷たい仕打ちです。冒頭の馬車での男性の行為が伏線かもしれないけど、結婚はあくまでも「上流階級へ戻るだけの手段」という悪女ぶりがわかる名シーンです。
ターニングポイントは、サラが図書館で本をぶつけようとした後にアビゲイルを降格し、それに対抗するためにアビゲイルが自分で本で顔に傷つけて女王に同情させ復職したシーンです。落馬で大傷を負ったのに女王に同情されなかったサラとも対称的です。
サラとアビゲイルの射撃シーンでのやりとりも見どころです。最初は鳩に当てることすらできないアビゲイルで、やっと慣れてきた頃にはサラに空砲を向けられおどされます。しかし後半はサラに銃を向けたり、鳥の返り血をあびせたりして宣戦布告します。
その後のアビゲイルは毒薬草から、サラの手紙の焼却まで徹底的にサラをつぶしにかかります。そしてサラ失脚後は「女王陛下のお気に入り」であるウサギすら踏みつけます。この辺りのエマ・ストーンの魔性を表す顔は迫真すぎておそろしいです。
うさぎはメタファー(暗喩)か?タイトルの意味は?
アン女王が亡くした17人の子の代わりにかわいがっている、17匹のうさぎ達ですが意外と登場シーンは少ないです。しかし我が子を亡くし続けて孤独や後悔だらけのアン女王が、なんとか正気を保ってるのは、間違いなくこのうさぎたちのおかげです。
本作では「女王陛下のお気に入り」が、レディ・サラからアビゲイルへと移る過程を描いていますが、実は最初から最後まで真の女王陛下のお気に入りは「いつも従順なうさぎ」だけということがラストでわかります。
アビゲイルは嘘に嘘を重ねてアン女王のお気に入りとなり、アビゲイルを踏みつけようとしたサラは国外追放されます。一番の女王陛下のお気に入りになったつもりのアビゲイルは、うさぎを踏みつけます(かわいそう)が、最後は女王に服従を求められます。
結局、最後まで誰も「うさぎ」以上の女王陛下のお気に入りにはなれなかったのです。「うさぎ」最強の理由は、ウソをつかないし、多くのものを望まないからでしょう。アン女王は絶対権力なので駆け引きは遊びでしかなく、最後は「従順」しか求めないのだと感じました。
あと「かごの中のうさぎ」は、痛風で足がわるいため王宮から出られないアン女王と、その女王から離れられないサラとアビゲイルの3人を象徴してるようにも感じます。「負けて」追放されたサラだけは、かごから出られたので「勝ち組」と考えることもできそうです。
アン女王とサラ夫妻のその後や子孫の史実まとめ
『女王陛下のお気に入り』はほぼ個人的な宮廷劇なので、世界史やイギリス史実は前提知識としては不要です。しかし観た後で歴史に興味がわいたので、調べてまとめました。Wikipedia - アン女王を参考にしました。
- アンとサラは少女時代の友人
- アンは結婚後、17人の子を亡くす
- 1688年の名誉革命で姉夫婦が即位
- 1702年、姉夫婦の死後、アン女王が即位
- スペイン継承戦争でフランスと戦争
- サラの夫は前線で活躍しサラも戦争推進
- アン女王はアビゲイルを寵愛
- 1710年、サラと夫は追放される
- 1713年、ヨトレヒト条約で戦争終結
- 1714年アン死去後、ステュアート朝断絶
- ハノーヴァー朝のジョージ1世即位
- アビゲイル辞任。サラ夫妻イギリス帰国
- サラの夫マールバラ公は大将軍に復帰
- チャーチル首相、ダイアナ妃はサラの子孫
アンは当初、イングランド、スコットランド、アイルランドの女王として即位したが、1707年にはイングランド・スコットランド両国の合同法が成立し、最初のグレートブリテン王国君主となります。
スペイン継承戦争でイングランドは、オランダとオーストリアと同盟し、フランスとスペインと戦いました。サラの夫マールバラ公は主にフランス前線で勝利しました。この戦争でスペインから奪ったジブラルタルは、2019年現在もイギリスの海外領土です。
ウィンストン・チャーチル首相や、ダイアナ妃が、サラ夫妻の子孫であることは公式サイトにも掲載されています。
全8章のタイトルは?一覧
いちお8章構成ですが、知らずともストーリー理解に支障はないです。エマ・ストーンか他の誰かのセリフであったり、オチに結びついたりする言葉が、章タイトルになっています。全8章のタイトルは次のとおりです。
- その1 ここの泥は臭い
- その2 思い違いや不慮の事故が怖い
- その3 何という装い
- その4 ささいな障害
- その5 居眠りして滑り落ちたら
- その6 化膿を止める
- その7 それは残して、気に入ってる
- その8 夢に見た。あなたの目を刺すのを
『女王陛下のお気に入り』総括
イギリス王室の宮廷内での女どおしの三角関係や駆け引きと権力争いが主軸で、まさに大奥のようなので日本人にはなじみある人が多いかもしれません。その場合、親しみやすく物語の流れを理解しやすいだろうけど、逆に目新しさは感じられないのでしょう。
どちらかというとアート寄りの映画で、近代ヨーロッパを再現する映像美や、女優たちの演技、照明はなるべく使わず自然光やろうそくの明かりを使い、広角カメラや魚眼カメラによる特殊な撮影技法などには感心させられます。アカデミー賞、ゴールデングローブ賞での快挙も納得です。
一方で、ストーリー上の面白さは、観る前のわくわく感を超えなかったし、展開にも斬新さはなく予想の範囲内で、ラストまで驚きもそれほど得られなかったです。史実がもとなので仕方ないけど、後半のサラにはもう少し反撃してほしいかも。
繰り返しになるけど、エマ・ストーン、オリヴィア・コールマン、レイチェル・ワイズの3女優の競演ぶりは素晴らしく今後も見逃せません。その演技対決や近代ヨーロッパ宮廷をのぞき見する感じなら、最高の映画体験ができると思いますよ!
私の評価 62/100(60が平均)
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