カンヌ受賞作『怪物』ネタバレ感想解説/結末は?誰が怪物?子どもはどこに?
是枝裕和 監督作。カンヌ脚本賞受賞作。ある郊外の町で息子と暮らすシングルマザー。ある日、学校で子どもがケガするが…しだいに大事へと発展していき…。ウソつきは誰?事の発端は?(ネタバレ感想あらすじ↓)
映画名/邦題 | 怪物 |
---|---|
日本公開日 | 2023/6/2 [予告] 上映時間:125分 |
監督・キャスト | 是枝裕和[キャスト] |
映倫区分 | 日本:G(年齢制限なし) |
配給/製作 (画像出典) | 東宝、ギャガ/フジテレビジョン、AOI Pro.、分福 |
日本興行収入 | 21.5億円 (年間30位) |
世界興行収入 | 0.2億USドル [出典] |
平均評価 平均:100換算 | (興収・評価: 2024.8.14更新) 81(私の評価は含まず) |
シリーズ 関連作品 | 是枝裕和 監督映画一覧 |
キャラ・ランキング(キャスト/出演者)
個人的なキャラクターランキングです。
※キャラクター名(キャスト/出演者/声優)
- 星川依里/より(柊木陽太)湊の同級生
- 麦野湊/みなと(黒川想矢)早織の息子
- 麦野早織(安藤サクラ)シングルマザー
- 保利/ほり(永山瑛太)湊、依里の担任教師
- 伏見(田中裕子)小学校の校長
- 星川清高(中村獅童)依里の父でシングルファーザー
- 広奈(高畑充希)保利の恋人
- 正田(角田晃広)湊、依里が通う小学校の教頭
ネタバレ感想『怪物』解説と評価
以下ネタバレあり感想考察なのでご注意を!
カンヌ受賞作?監督・脚本・キャストについて
映画『怪物』は是枝裕和 監督によるオリジナル映画です。カンヌ国際映画祭の脚本賞(脚本家:坂元裕二)とクィア・パルム賞(LGBTやクィアの映画へ与えられる)を受賞。
是枝裕和は『万引き家族』『ベイビーブローカー』を最近監督。坂元裕二は古くはドラマ『東京ラブストーリー』、最近は映画『花束みたいな恋をした』の脚本を担当。
音楽は、残念ながら最近亡くなった坂本龍一によるもので遺作だそうです。映画音楽では『ラストエンペラー』『レヴェナント: 蘇えりし者』等が有名ですが、他にも多数を手がけています。
出演者の安藤サクラは『万引き家族』『ある男』に、永山瑛太は『友罪』『護られなかった者たちへ』に、高畑充希は『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』『キャラクター』等に最近出演。
映画『怪物』ネタバレなし感想と評価
息子愛の強いシングルマザー、子ども好きな新任教師、多感だが情報量の乏しい子ども達、それぞれの視点で「いじめ」「体罰」「モンスターペアレント」「切り抜き視点の危うさ」「性自認」等に切りこむ社会派の羅生門形式ドラマです。
本作を観る人は、タイトルのとおり「怪物」を探すことになるでしょう。しかし「怪物」は視点や立場によって一定ではないと思い知らされます。特に序盤は、シングルマザー同様に、得た情報が少ないため、教師達に違和感を覚えます。
その状態で「容疑者を徹底的に制裁しようとする行為」は現代の「SNSによる過剰な制裁」を皮肉ってるよう。一方で、ロボットのような一同謝罪は、いじめ加害の学校側や政治家の「謝ればいいんでしょ?」という態度への皮肉とも感じます。
是枝裕和監督作は、役者の演技も素晴らしくて、今回も安藤サクラ、永山瑛太、田中裕子たちは言うまでもないが子役の黒川想矢、柊木陽太も大人にせまる名演でした。日本の子役演技はあきらめてたが、是枝作品だけは安心できるレベル。
坂本龍一の音楽は物語を邪魔せず心情にそった曲ばかりで素晴らしかったです。坂元裕二のこれまでの脚本作はセリフに違和感あったが、本作は台詞をおさえて是枝寄りの自然演技で見せたため一番クセがなかったように感じます。
結果的に、是枝裕和と坂元裕二のコンビがお互いの苦手分野を補完しあった上で相乗効果を出せてる本作は、文字通り怪物級の作品に仕上がってます。またタッグを組み、邦画実写が得意とする社会派ヒューマンドラマの傑作を期待したいです!
シングルマザーの息子が教師から体罰?
夫を亡くしてクリーニング店で働く早織(安藤サクラ)は、小学5年生の息子・湊/みなと(黒川想矢)と2人暮らし。商業ビルの火事をベランダから眺めます。早織は、湊の切った髪・水筒に土・片方の靴を紛失・耳をケガしたことを気にかけます。
ある日、帰宅しない湊を探すと廃墟トンネルで「怪物だーれだ?」と叫んでるのを発見。帰宅途中、亡き父の話を聞いた湊は車を飛び降りたが軽傷でした。CT検査の異常なしを聞いた湊は「担任に脳がブタと言われた」と発言。
早織は学校へ行き、校長と先生方に伝え、後日、ロボットのような担当教師と校長達に謝罪されるのみ。その心ない対応に憤った早織は、親達の前で学校側と担任の保利先生に謝罪させ、マスコミにも体罰として報道されます。
息子の湊が階段から落ちたと連絡を受けた早織は学校へ行き、休職中の保利先生(永山瑛太)が来てたことを知ります。保利は早織に、湊が星川依里/よりをいじめてたと伝えます。早織は湊を連れ帰るが、嵐の夜に湊は行方不明に…
以上が、夫を亡くして愛する息子と2人暮らしのシングルマザーの視点によるあらすじです。ビル火事と数々のいじめを示す証拠が、序盤から不穏に感じさせます。担任がガールズバー通いとか、校長が孫をひいた疑惑などの噂話もあるある。
シングルマザー早織の視点から見ると、明らかに学校も校長も担任教師も何かを隠してそうだし、心のこもらないマニュアル対応にも納得できません。謝罪シーンは、現実の学校や政治家の謝罪会見そっくりで誠意が感じられません。
しかしそう感じるのは、私たちが「常に物事をマスコミの視点からしか見てなくて」「犯人を定めてしまってる」からです。全て録画されてない限り全方向からの真実は見えず、それぞれの立場で言い分はあるはず。それが中盤で明らかに!
表情とぼしい教師がなぜ加害者に?
商業ビルの火事を見に来た保利/ほり(永山瑛太)は、恋人(高畑充希)と一緒のところを生徒たちに見られます。夫の事故で休んでた女校長が復帰し、赴任したての保利に軽く挨拶。「本当は校長が孫をひき殺した」という噂も聞きます。
保利は、教室で暴れてる湊を止める時、手が接触してしまいます。そのケガを体罰と思った母親が学校へ乗りこんで来ます。担任の保利は謝罪しようとするが、表情のとぼしい保利は誤解されるため、教頭たちに出席を止められます。
保利は、校長と教頭たちの作った謝罪文を読む練習をし、本番でもマニュアル通りに対応。保利は、麦野湊が出たトイレで閉じこめられた星川依里を見つけ、湊と依里のケンカや、湊が関わった猫の死体や、湊が持つライターを見て湊を疑います。
依里の家を尋ねると、父親(中村獅童)が「依里の脳はブタだから治療中」と。やがて湊の母が弁護士を介して学校を糾弾し、親達の前で保利先生が謝罪させられ、マスコミが自宅まで来て恋人とも別れることに。ウソで犯人扱いした湊を問いつめると、湊は階段から落ちてケガ。
教師たちに追いつめられた保利は、吹奏楽の練習音が聞こえる中、屋上でたたずみます。嵐の日、麦野湊の家を訪ねた保利は、母親と一緒に廃墟へ探しに行き…
以上は、表情のとぼしい担任教師の保利先生の視点です。シングルマザーのパートでは「全く信用できない死んだ目のハズレ教師」と思ったが、あれはマニュアル通り対応した結果と、生徒の母からの偏見を見せたものでした。
善良だが笑い顔がかたい、と恋人からダメ出しをくらう保利は、生徒には好かれてそうに見えたが、いろんな人達の裏切りにより転落していく姿が不運としか言いようないです。
保利は素直だからか、恋人によるシングルマザーへの偏見、同校教師のウワサ話、子ども達の発言に振り回されてさらに状況を悪くします。火事のビルを見た反応から、保利がガールズバーへ行った噂も真実ではないと感じました。
保利の視点での「怪物」の正体は、モンスターペアレントの早織と、依里をいじめてそうな湊と、保利より学校を守ろうとする校長でしょうか。視点が変わっただけで、序盤とは「正義と悪」が入れ替わり。さらに終盤で変わります。
結末は?怪物は誰?2人の少年はどこへ?
シングルマザー家庭の小学5年の麦野 湊は、友人達がいじめる星川 依里のことが気になります。いじめっこの気をそらすために暴れるが、担任の保利先生に見つかり接触してケガします。音楽係で依里と接した後、2人は遊ぶようになります。
靴を隠されて裸足の依里に、湊は片方の靴をあげます。死んでる猫を見つけて運び燃やすが、火事をおそれて水筒に泥水をくんで火を消します。父親が通うガールズバーのビルに火をつけた可能性を語る依里から、湊はライターを取り上げます。
廃墟に放置の電車で怪物ゲームをする2人。湊は依里に友情以上の感情を持って動揺。教室でいじめられる依里をかばった湊は、自分が標的にされるのをおそれて依里とケンカに。トイレに閉じこめられた依里も湊は救えません。
湊は不倫中に事故死した父を嫌悪。女子っぽい依里は父から「脳がブタ」と言われたと。自分も変だと感じた湊は母に「担任に脳がブタと言われた」とウソをついたが、その嘘を校長に自白。校長は幸せについて語り、湊と吹奏楽で共演奏。
湊が、引っ越すことになった依里の家を訪ねると、依里が父から虐待されてる可能性を感じます。台風の夜、湊は依里と一緒に廃墟の電車に乗り、発車する夢を語りながら過ごします。起きると台風は去った後で、快晴の世界へ駆け出します…
以上が、多感なのに知識や情報量が追いついてない子ども2人の視点です。想像をかきたてる「おそろしいラスト」でした。子ども視点での怪物とは「見たいものしか見てない大人達」かと。そして「怪物」を探した私たち視聴者も怪物。
本作がカンヌでクィア・パルム賞を受賞した理由でもある「性自認」(自分の性や恋愛対象を認識)のシーンにはふるえました。自分が「世の中の情報や常識と違う」と感じた時、自分を「怪物」と誤解したり封じこめる人も多そう。
本作で悪の面しか描かれていないキャラは、息子の性同一性障害を認めたくなくてDVを繰り返した依里の父(中村獅童)と、依里をいじめてた男子達。また、偏見やウワサ話で自覚なく他人を傷つける大人達も怪物寄りかも。
ラストは、保利先生と湊の母親が廃墟で見た光景を思うと、湊と依里は一緒になかよく天国へ旅立ったとも考えられます。または、生死をさまよってる状態で夢を見てるだけかも。どちらも2人の意識は自由で幸せそうだが、生きてるラストを最も期待したいです。
私の評価 70/100(60が平均)
シリーズやジャンル⇒是枝裕和 監督映画一覧