長澤まさみ映画『MOTHERマザー』ネタバレ感想考察/実話?殺人事件の真相は?
実話から着想された物語。シングルマザーの秋子はその日暮らしで、金に困ると祖父母から借金を繰り返したが愛想つかされます。息子周平は母と各地を転々とし、養父と暮らしたりするうちに…。誰が悪いのか?実話の事件は?(ネタバレ感想あらすじ↓)
映画名/邦題 | MOTHER マザー |
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日本公開日 | 2020/7/3 [予告] 上映時間:126分 |
監督・キャスト | 大森立嗣(キャスト) |
映倫区分 | 日本:PG12(小学生指導必要) |
配給/製作 (画像出典) | スターサンズ、KADOKAWA/ハピネット、SS工房 |
日本興行収入 | 1.6億円(興行収入ランキング) |
平均評価 平均:100換算 | 71(私の評価は含まず) |
シリーズ 関連作品 | ヒューマンドラマ/恋愛/コメディ一覧 |
登場キャラクター(キャスト/出演者)
- 三隅秋子(長澤まさみ)シングルマザー。周平の母
- 周平(奥平太兼)秋子の息子
- 周平の幼少期(郡司翔)
- 川田遼(阿部サダヲ)ホスト。秋子の内縁の夫
- 高橋亜矢(夏帆)周平らを気にかける児童相談所の職員
- 宇治田守(皆川猿時)秋子に気がある市役所の職員
- 赤川圭一(仲野太賀)秋子らが身を寄せるラブホテルの従業員
- 三隅楓(土村芳)秋子の妹
- 三隅雅子(木野花)秋子の母親。秋子
- 冬華(浅田芭路)父親違いの周平の妹
ネタバレ感想『MOTHER マザー』解説と評価
以下ネタバレあり感想考察なのでご注意を!
監督とキャストについて
監督・脚本の大森立嗣は、2005年『ゲルマニウムの夜』で監督デビュー後、2013『さよなら渓谷』でモスクワ国際映画祭や国内複数賞を受賞。最近の監督作は『まほろ駅前狂騒曲』『セトウツミ』『光』『日日是好日』『タロウのバカ』など。
主演の長澤まさみは、経歴を語るまでもなくTVドラマや映画で大活躍の人気女優です。最近も『アイアム・ア・ヒーロー』『マスカレードホテル』『キングダム』等で存在感を発揮してます。本作では新境地に挑戦ですね!
周平役の奥平大兼(おくだいら だいけん)は、初オーディションで大抜擢されデビュー作となります。空手の優勝経験もあるとか。個性派俳優の阿部サダヲは、共演者の狂気を表出させる役を複数こなしてるので、長澤まさみとのシンクロは期待できそうです。
他には『海街diary』で長澤まさみと共演した夏帆、大森立嗣監督作で再演の仲野太賀や、皆川猿時、土村芳、木野花や、ほぼデビュー作となる子役たちが出演していて相乗効果が楽しみ。
実話の殺人事件は?原作は?
『MOTHER マザー』は実話の「埼玉県川口市の少年による祖父母殺害事件」をベースに着想を得てオリジナル演出もまじえて描かれた映画です。当事件は山寺香『誰もボクを見ていない』として書籍化もされてるので興味ある人は読んでみてください。
埼玉県川口市の少年による祖父母殺害事件とは、2014年3月に17歳の少年が金銭目的で実の祖父母を殺害し、強盗殺人事件で逮捕された案件です。裁判の結果、控訴・上告でもくつがえらず懲役15年の実刑が確定しました。
少年は生活能力に乏しい母親と各地を転々としながら、小学4年時からは学校へも通わせてもらえず、母と養父から身体的・性的虐待を受けていました。少年は異父妹の面倒も見て、盗みや祖父母からの借金も繰り返してたようです。
裁判では、母親が「実家での金の調達のための犯行を指示」したかが焦点となったが、実証されず母親は懲役4年半の軽罪ですみました。母親からは反省は見られず、介入しかけた児童相談所や社会が救えなかった点も問題視されました。
悪いのは秋子の実家か?
秋子(長澤まさみ)は定職につかず10歳くらいの息子の周平とぎりぎりの2人生活です。実家に金を借りに行くと祖母から「まず20万円返せ」と言われ、秋子の妹の楓からも「もう絶対に貸さない」と断られます。
それでも周平が心配な祖父は、内緒で少しだけのお金を周平に渡します。秋子の妹は大学まで行ってるので、極度の貧困家庭やネグレクトやDV家庭ではなさそうです。ただし後のシーンで、幼い周平に怒鳴る祖母も見たので問題0でもなさそう。
今回の『MOTHER マザー』は、実家と秋子との関係が表面的にしか描かれてない点が不満です。「誰がモンスターを生んだのか」というテーマは作家や監督にとっては取り組みたい課題だと思うのですが、難しすぎて放棄したのでしょうか。
映画で観る限りは実家の責任は感じられません。ただし周平だけでも実家暮らしができてれば悲劇は防げたと思うのですが。秋子は市役所職員には周平を預けるが、実家には決して預けないので「引き取られる」のを警戒してたように感じます。
悪いのは実の父親か?
周平の実の父親は不明か登場しないと思ってたのですが、秋子は隠れて周平に父から金を要求させます。しかも養育費「毎月5万円」とは別に「修学旅行代」とウソつかせて。もちろんやり口は見抜かれてるので、数千円しかもらえません。
父親は見た目では定職についてそうだし、過去にDVがあったようにも思えません。つまり秋子は結婚の失敗により性格破綻した犠牲者ではなく、生来の社会不適合者ぶりに愛想つかされて離婚したのだと考えられます。
だから周平の実父、秋子の元夫にも責任は感じられません。父は周平に「俺の所に来るか?」と聞きますが、幼い周平は自分の意志で母を選びます。父はそのことを計算済で、最初から周平を引き取る気はないようにも感じましたが。
ただし、実父は養父・遼と同じタイプの人間の可能性も高く、それなら心の安定時には温和な性格なので、映画で描かれた部分のみでは判断できません。それでも養育費5万円を払い続けてる限り、最低限の責任は果たしています。
悪いのは大声で怒鳴る養父か?
秋子はゲーセンで知り合った自称ホストの川田遼と名古屋?へ行き、1週間以上も周平を置き去りにします。遼は子ども前での恫喝、ゆすり、殺人未遂後の逃亡、職場での盗み、闇金融の踏み倒しなど、映画内で最もダメ人間に描かれています。
特に子ども前で怒鳴る姿は見てて苦しかったです。市役所職員を「幼児性的虐待」でゆすり「トラウマになったらどう責任とるの?」と怒鳴りましたが、私は演じてる子役の「現実的なトラウマ」の方が心配です。リアルの親はどう感じてるのか。
遼は秋子が妊娠した時も「自分の子じゃない。面倒だからおろせ」と秋子と周平を殴りつけ、しばらく行方不明になるという無責任さ。遼には親と兄弟がいるようですが、幼少時代の育てられ方を、少しでも見せてほしかったです。
そんなダメ人間の遼ですが、秋子と周平の転落については一端しか責任ないと思ってます。むしろ遼がいない時の方が、ホームレスのように悲惨な生活でした。男に寄生しないと生きられない秋子の獲物の1人です。
悪いのは行政や児童相談所の職員か?
実際の殺人事件後の報道や書籍では「居所不明児童を社会や児童相談所が救えなかった問題」についても取り上げられました。映画内では、自分も問題ある母に育てられたと語る児童相談所の職員・亜矢(夏帆)が、住居や周平の学習をサポートします。
実際の行政は人間味ないイメージありますが、亜矢のサポートぶりは職域を越えるほど親身に思えました。逆にこれ以上ふみこむには虐待の傷などを見つける必要がありそうですが、秋子が子を愛する気持ちは本当なので虐待はありません。
フリースクールでの「親から自立させるための教育」は残念ながら期間が短すぎました。宿泊所から出る時に周平が初めて「2人(秋子と遼)だけで行ってよ」と抵抗したのはまさに教育のおかげなので、あと少し時間があれば何か変わってたかも。
いずれにしろ、行政や児童相談所も全国民を見張るにはリソース不足だし、そもそも誰もSOSを発してない状態では救いようがないのでしょう。周囲の大人や社会が口出しできないのはなおさらです。
しかし、責任の大きな部分は行政や児童相談所にもあったと思います。ただ、その責任を果たすためには、柔軟な法改正は必要なのでしょうね。最低でも義務教育を受ける権利はもっと強硬に行使できてもいいと感じてます。
悪いのは毒親の秋子か?アスペルガー症候群?
もう最初から結論は出てるのですが「少年による祖父母殺人事件」において最も悪いのは毒親の秋子です。聖母か?モンスターか?というコピーの回答は「モンスター」ですが、周平にとっては「聖母」なのが洗脳や共依存のおそろしさ。
本作『MOTHER マザー』で一番知りたかった「秋子がモンスターになった経緯」を描いてないのは、大森立嗣監督の力量不足や怠慢すら感じます。映画だけで判断すると、秋子がアスペルガー症候群やADHDである可能性もあります。
アスペルガー症候群とは高機能自閉症とも呼ばれ、脳の異常により引き起こされる発達障害で、秋子の場合「社会・対人関係の困難」が当てはまります。ADHDも発達障害の1つで、注意力散漫で突発的な行動が目立つのが特徴です。
秋子も遼も共通して「無計画な浪費や散財グセ」がひどく、お金ある時にはぜいたく三昧します。これが発達障害のせいであってもなくても、責任の多くは教育不足だと思います。とすると気づけなかったか放置した両親の責任も軽くないです。
毒親を演じた長澤まさみは、いつもの元気女性のイメージからは想像できないほどダークな雰囲気を演じきってました。ただ、無理した演技もあり、同世代にもっと似合う女優もいるので客引き配役でもありそう。本人は新境地を開拓したかったのかも。
親が子をどう育てても自由?誰でも子を産んでいいのか?
『MOTHER マザー』で秋子(長澤まさみ)は「親が子をどう育てても自由でしょ」と言い切りますが、本作の見せ方では「いやそんな自由はない」と気づかせてくれます。20世紀前半までは秋子の思想も成り立ったけど、現代の先進国では論外。
子は親を選べないし、どんな毒親であっても生まれてずっと一緒に暮らしてると「依存=安心」となり離れられなくなります。「カップラーメン」「ビールダッシュ」「ばあさんダッシュ」と恐怖で支配されると洗脳に似た状態にもなります。
実際の児童相談所がどこまで踏み込めるのかわかりませんが、少なくとも秋子のような親からは子を救ってほしいです。そもそも秋子のように、上手く育てられない人が子を産んでいいのかも疑問です。
昔は貧乏人ほど労働力を確保するために多くの子を産んでたけど、それはまるで「奴隷」です。現代の先進国では「子にも基本的人権」があるので「貧乏人は子を産むな」というより「育てられないならせめて家族か行政に」まかせてほしいです。
母子の共依存が悲劇を?タイトルの意味?
ラストで逮捕された周平と秋子に弁護士が語りかけます。ここで出た「共依存」とは、お互いが過剰に依存しあって離れることのできない状態のことです。特に周平は「自分が母を守らねば」という強い使命感も持ってました。
また、周平にとっての秋子は「オンリー1」であり「神」「聖母」(タイトルの意味)に近い存在です。「母が好き」と言った以上の「愛」も感じます。だからこそ「祖父母が死ねば金が手に入る」と命令されれば、躊躇しつつも従わざるをえなかったのでしょう。
一方、秋子にとっての周平は2人きり(または冬華と3人)の時は「私の分身」と言ったように「親」に匹敵するほど大きな存在になります。しかし秋子に「男」がいる時の周平は「ナンバー2」どころか奴隷やペットのような扱いに降格されます。
周平が「僕たち、ここに残っていい?」と言った時、秋子は残酷にも「あの女(亜矢)はくさい、気持ち悪いって言ってたよ」と子どもが絶望するような台詞をはきます。その瞬間、つながりかけてた周平と社会との接点が断ち切られました。
つまり秋子は「1人きりになりたくないだけ」なのかもしれません。または「母性が強すぎる」という解釈もできそうです。妊娠した時に、おろすという選択肢がなかったのもそういった理由からかもしれません。
『MOTHERマザー』のような映画の意義とは?
『MOTHER マザー』のテーマは「共依存する母子の悲劇」ですが、その主な原因は「母の浪費グセ」による「貧困」です。特に貧困については、最近世界中の映画でもテーマにされ、カンヌやアカデミー賞の常連になっています。
日本では『万引き家族』や主テーマではないが『天気の子』、ハリウッドの『ジョーカー』『アス』、韓国の『パラサイト 半地下の家族』、フランスの『レ・ミゼラブル(2020)』等が記憶に新しいです。
上に挙げた作品はいずれも社会問題である「貧困」を描いてますが、エンタメ性も放棄してないため話題になり多くの人に観られています。好みはあると思うけど、そういう映画の方が、悲劇をより悲しく描く映画より「上手い」と感じます。小説では宮部みゆきの『火車』の頃の作品がいいバランスです。
そしてこれも個人的な意見ですが、この手の映画が多く作られない社会、多く観られない社会の方が望ましいとも感じてます。「絶対観るべき」と強くすすめる人もいるけど、本当に観てほしい貧困層には届いてないのが現状だと思います。
また、少年犯罪というテーマでは『MOTHER マザー』と同時期公開の『許された子どもたち』の方が見せ方もうまく、より強く印象に残ります。ただし両作ともエンタメ放棄、終盤のぼんやりが似てて残念。あと1歩踏みこんでほしいです。
『MOTHERマザー』私の評価と総括
長澤まさみの母役は初めて観たけど、年齢的には今後増えるんでしょうね。ここまでダークな役もめずらしいけど、怒声はよくやってたので、もしかしてそれが配役の決めて?とも思いました。個人的に好きなのは『キングダム』の楊端和。
周平役の奥平太兼はデビュー作らしいけど、長澤まさみとの親子感は抜群で相性の良さも感じました。ただ、MVPをあげたいのは周平の子役の郡司翔です。阿部サダヲ、長澤、木野花の狂気演技をあびながらの成長は楽しみと不安が混ざります。
そのように役者の演技は申し分なかったけど、ストーリーというか脚本が「再現ドラマ」でしかなくて残念です。見せ方も周平に感情移入させて同情を誘う風ですが、長澤と阿部の強烈さが邪魔しすぎて「モンスター映画」と化しています。
だから長澤まさみと阿部サダヲの狂気ぶりを観に行った人は好感かもしれないけど、社会派物語を期待してた人にとってはテーマが良かっただけにウケない可能性もあるかも。それでも大森立嗣監督には可能性を感じるので次作は期待したいです!
私の評価 62/100(60が平均)
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