映画『すばらしき世界』評価は?ネタバレ感想考察/元殺人犯の結末は?善か悪か?
13年ぶりに出所した三上は元殺人犯。小説家志望の津乃田は、TVプロデューサー・吉澤の依頼で三上を取材することになるが、短気な三上は…。すばらしき世界とは?津乃田は何を書くのか?(ネタバレ感想あらすじ↓)
映画名/邦題 | すばらしき世界 |
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日本公開日 | 2021/2/11 [予告] 上映時間:126分 |
監督・キャスト | 西川美和[キャスト] |
映倫区分 | 日本:G(年齢制限なし) |
配給/製作 (画像出典) | ワーナー・ブラザース/分福、AOI Pro. |
日本興行収入 | 5.8億円(興行収入ランキング) |
平均評価 平均:100換算 | (興収・評価: 2024.8.15更新) 79(私の評価は含まず) |
シリーズ 関連作品 | ヒューマンドラマ/恋愛/コメディ一覧 |
キャラ・ランキング(キャスト/出演者)
個人的なキャラクターランキングです。
※キャラクター名(キャスト/出演者/声優)
- 三上正夫(役所広司)人生の大半を刑務所で過ごした元殺人犯、元ヤクザ
- 津乃田龍太郎(仲野太賀)元TVディレクター。吉澤から三上の取材依頼を受ける
- 松本(六角精児)スーパー店長。三上に親身にアドバイスする
- 井口(北村有起哉)生活保護担当のケースワーカー。再就職などを助ける
- 吉澤遥(長澤まさみ)TVプロデューサー。津乃田に三上の取材を依頼
- 下稲葉明雅(白竜)下稲葉組の組長
- 下稲葉マス子(キムラ緑子)下稲葉の妻
- 庄司勉(橋爪功)弁護士。三上の身元引受人
- 庄司敦子(梶芽衣子)庄司の妻。面倒見がいい
- 西尾久美子(安田成美)三上の元妻
ネタバレ感想『すばらしき世界』解説と評価
以下ネタバレあり感想考察なのでご注意を!
原作小説・監督と主要キャスト陣
原作は、佐木隆三の長編ヒューマン小説『身分帳』(1990年刊行)です。実話の人物をモデルにして描かれています。映画のタイトルは『すばらしき世界』です。
監督・西川美和は『ゆれる』『ディア・ドクター』『永い言い訳』等で監督・脚本をつとめてきてます。
主演の役所広司の最近の出演作は『三度目の殺人』『孤狼の血』等。仲野太賀は『今日から俺は』『泣く子はいねぇが』等、長澤まさみは『マスカレードホテル』『MOTHER マザー』『コンフィデンスマンJPプリンセス編』等に出演。
殺人の経緯は?反省は?社会に順応できるのか?
妻(安田成美)を守るため、三上正夫(役所広司)は家宅侵入して来たチンピラをめった刺しで殺害し逮捕されました。13年の刑期を終えて、身元引受人である弁護士(橋爪功)とその妻にスキヤキで迎えられ、涙を流します。
もうヤクザ仕事はやめてカタギになろうと誓った三上ですが、深刻な持病も見つかり、しばらくは生活保護をもらおうと申請。元反社だが、弁護士とケースワーカーの配慮で受給でき、アパートも見つかるが短気なのでいきなり住民ともめます。
三上は子どものまま大人になった感じで、理不尽なことには大声や暴力で解決しようとしがちです。殺人について反省してないし、刑務所では何度も問題を起こして独房に入れられました。ヤクザ世界に戻ることにも抵抗はなさそうです。
人生の大半を刑務所で過ごしたので、礼儀正しくてミシンや裁縫や細かい作業もていねいにこなせるDIY達人ですが、それらを活かせる職業はなくて残念。失効した自動車運転免許の再取得も、短気なせいで進まず教習費の支払いもままなりません。
元殺人犯というより、元ヤクザ(元反社会的勢力)というレッテルの方が何かと生きづらい社会なのだと描かれています。しかも表裏がなく常に本音の言動なので、建前が基本である日本社会では特に目立ってしまいます。
ヤンキー風の男さえ「こいつ反社です」と叫んで逃げる賢明さを持ち合わせてるのに、元ヤクザを自慢する三上は本当に不器用で笑ってしまいます。ミシンで剣道道具を作って生計をたてようとする姿なども滑稽ですが、純粋すぎて心配になります。
現実社会は「すばらしき世界」なのか?
三上は刑務所で「身分帳」と呼ばれる受刑者の経歴を書き写してTV局に送付し、取材とひきかえに消息不明の母親探しを希望します。津乃田(仲野太賀)は、TVプロデューサーの吉澤(長澤まさみ)に感動ドキュメンタリーを依頼されます。
津乃田はTVディレクターをやめて今は小説家志望で、三上の人間性にひかれて取材を開始します。しかしある日、三上はからまれたサラリーマンを救うため、半グレ風ヤンキーに暴力をふるいます。津乃田はこわくて撮影できずに、現場から逃走。
津乃田は、一緒にいたプロデューサー吉澤にあきれられてTV企画はなくなります。しばらく三上と離れた津乃田ですが、カタギとして生きる覚悟をした三上を独自取材するうちにその魅力のとりこになっていきます。
プロデューサー吉澤には「元ヤクザが普通の人になったら何書くの?」と言われるが、津乃田は「普通になればいい」と言い、三上について書き始めます。三上は実話に基づいた人物像なので、それを書き留めた著者こそ津乃田のモデルなのかも。
長澤まさみ演じる吉澤はビジネス重視のゲスキャラに描かれてますが、私達が普段住んでる「世界」では典型的な仕事の進め方です。吉澤を批判すると私達にもブーメランで跳ね返ってきそうです。三上の「すばらしき世界」とは対局ですが。
三上の経歴から万引き犯と疑った後、無実とわかって親しくなったスーパー店長・松本(六角精児)も「テレビに食い物にされるのでは」と忠告します。しかし人を疑わない三上は楽観的で、資本主義社会じたいが「悪」と感じさせられます。
「すばらしき世界」とは?親切すぎる周囲への違和感
三上は職も見つからず、自動車教習所でもうまく運転できず補助金ももらえず、親身になってくれる人たちにも短気であたってしまい、カタギ生活に限界を感じます。ヤクザ時代の仲間、福岡の下稲葉組長(白竜)に温かく迎え入れられます。
しかし組長は片足を失い、部下に資金を持ち逃げされたあげく、警察ざたになりヤクザ家業は風前のともしびです。組長の妻や津乃田に説得され、カタギに戻った三上は、スーパー店長、ケースワーカー、弁護士にも支えられて更生を再会。
やがて三上は、長年の刑務所暮らしで身についた器用でていねいな仕事ぶりを生かし介護補助を始めます。助けてくれた人たちに囲まれて「短気がでれば皆の顔を思い出す」と誓った三上は、障害を持つ同僚がいじめられてもグッとこらえます。
悪事を見過ごしてまで、そんな社会に順応しないと「この世界」では普通に暮らせないと思うと悲しくなります。三上は帰り道、障害を持つ同僚から花束をもらい、元妻から娘(年齢的に他の夫の子)と一緒に食事したいと電話をもらいます。
「同じ世界」での出来事ですが、そんなささやかな幸せを積み重ねることで「すばらしき世界」に近づくと感じながら三上は自室で…。劇中で三上に語られた「空は広い=Under the Opne Sky(英題)」を表すような青空につつまれながら。
周囲の人たちが損得勘定抜きで優しすぎると感じたけど、三上の人間性にひかれて集まったとも解釈できます。ただ「世間では我慢も必要。見て見ぬふりして逃げろ」という極端アドバイスに誰も反論しないのは違和感でした。
せめて「警察や大声で人を呼べ」みたいな賢明な対処法を教えるべきでは。正義感や道徳観の塊のような三上だからこそ極端な助言をしたのでしょうけど、そんな我慢をし続けられるほど三上の心は強くないことに、誰かが気づくべきでした。
『すばらしき世界』私の評価と感想
主人公の三上の人間味は言うまでもなく、支えてくれる魅力的な登場人物たち、不寛容で理不尽な社会でも「すばらしき世界」と思える出来事が次々に起こる展開など、濃密でぜいたくな時間の流れを見せてくれる良作映画です。
西川美和監督の手腕はさすがだし、役所広司ら演技派俳優の共演も本当の関係性のように見えるほど自然でした。殺伐とした暴力や大声もありますが、全編とおして三上の純粋さに笑いをさそわれる構成もお見事です。
不満点を述べるなら、観たことある話の連続で結末にも意外性がないストーリー展開だったこと。また、三上の成長がRPGのように段階的なのも気になりました。困難⇒親切な人に助けられる⇒困難…の繰り返しはわかりやすいけど単調。
三上の母親の件も、ネグレクト=虐待の可能性が語られた後に放置されて気になりました。
一方、取材した津乃田が三上と接するうちに自分が何を書きたいのかわかってきて、三上と共に成長する津乃田の物語は興味深いです。手段は選ばず成功を目指す吉澤とは違い、「すばらしき世界」の住人になりかけています。
ヤクザヤクザしてないヒューマンドラマなので多くの人に観てほしいけど、私もヤクザ映画は避けがちなのでチラシやポスターに工夫はほしかったかも。『ヤクザと家族』同様、ヤクザ消滅は喜ばしいが、もっと恐い存在に気づかされる映画でした。
私の評価 66/100(60が平均)
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